Act.2 これがあたしの進む道?...12

 翌日、大学に行ったあたしは、運悪くというか当然というか加奈子と里佳に捕まって、昨日のことをアレコレ訊かれた。
 このあたしにごまかす、なんてことが出来るはずもなく、正直に昨日あったことを話すしか出来なかった。
「そのリンショウシンリシの碧さんて、篠宮さんとどんな関係なのよ?」
 加奈子が興味津々に訊いてくるけど、あたしも結局詳しいことは聞けなかったので、答えようがなかった。
「よく分かんないの。美人だし、いい人なんだけど……」
「なんで訊かないのよ。気にならないの?」
 そんな、ズバッと訊かないでよ、加奈子。
「き、気にならない訳じゃないけど……」
「けど?」
「昨日は訊く機会がなくて……」
「もう! もしその碧さんが篠宮さんの恋人とかだったら、どうするのよ!」
「ど…どうするのって、どうもしないでしょ?」
「響子ってば、そんな呑気に……。篠宮さんに恋人がいたら、ショックじゃないの?」
「え、ショックって……」
 助けを求めるつもりで里佳を見たら、苦笑いであたしを見てた。
「加奈子、ちょっと先走り過ぎ。響子は、まだ自覚ないみたいだし」
「ちょっと里佳、自覚ってなに?」
「その内に分かるから、今は気にしないでいいよ、響子。ね? 加奈子」
「うーん、まぁしょうがないよね、響子じゃあ」
「ちょっと二人とも、どういうことよ?」
「「まぁまぁ、その内ね」」
 なんて二人でハモられてしまった。ホントに、何のことだか全然分かんないよ。
「ま、それは置いといて。二人で食事に行ったんでしょ? どうなったのよ?」
 加奈子が身を乗り出してきた。話題が変わったのは嬉しいけど、そっちですか……。でも言わない訳にはいかないよね。

 
 

「なにそれ! ヒルズの高級レストラン!? 支配人自ら案内してくれったって……しかも、何よそのお客の反応! 篠宮さんって御曹司ってこと?」
「名字と名前にそれぞれ「様」が付くなんて、尋常じゃないよね」
 里佳もちょっと目を丸くしてる。あたしもそういう人、初めて見たもん。
「それにしても、響子よくそんな中で食事できたね」
「まさか。おかげで、料理の味が全然分かんなかったよ」
「あははっ、でもさ篠宮さんのセリフじゃないけど、これで響子も自分のこと少しは見直せた?」
 う……そう訊かれると答えづらい。
「えっと……やそのぉ、ね」
 なんて言おうか、口の中でゴニョゴニョ言ってたら、加奈子が小さく手を挙げた。
「あ、分かったからもういいよ」
 う……ややっぱりまだダメダメだよね。
「ちょっとは変わったみたいだから」
 は?
「うん、昨日までとはちょっとは違ってるよ」
 え!? 里佳まで?
 あたしは訳が分からないでいたら、加奈子と里佳が顔を見合わせて笑った。
「あははっ、きょとんとしちゃって! 響子、全然分かんないの?」
「でも、それが響子らしいかも」
「な、なにが?」
「あのね、昨日の響子だったら、あたしにそう訊かれた途端に「そんなことないよ」とか「あたしなんか大したことないから」とか、まぁとにかくすぐに否定する言葉が出てたのよ。でも、今は出なかったでしょ。だから、変わったんだなって分かったの」
 あたしには信じがたい加奈子の話に、里佳も相槌を打ってる。
「ホントに? あたし実感ないけど…」
「だから、そこが響子のいい所なんだって。あたし変わったでしょ! おーほほほっ! なんてキャラになったら、あたし親友やめるよ」
 いや、そこまで自己顕示がハッキリ出るなんて、あたしには一生ないから大丈夫だよ。
 苦笑する二人に、あたしも苦笑いで返すしかなかった。

 
 

「社長面接って明日だっけ」
「う、うん」
 またまた身を乗り出して訊いてくる加奈子に、あたしは思わず身を引いていた。
「レストランでのことを聞いてるとさ、ますます篠宮さん社長説が濃厚になってくるよね」
「うん、言えてる」
 うう、それを考えると頭が痛いなぁ。
「はあー……や」
「大丈夫だって響子。篠宮さんも、そのいや〜なオジサンが社長だったら、その会社に行かせたりしないって言ってたんでしょ?」
「うん……」
「だったら心配することないって。あたし、今までだって、響子が面接で落ちてた理由が分かんないもん。だから、今度こそは大丈夫!」
 加奈子が凄い自信たっぷりに言ってくれる。その自信はどこから来るのよ!? そう言ってくれるのは、嬉しいけど。加奈子と里佳だけだよ、そんなこと言ってくれるの。
「でも、明日面接に行って、そこに篠宮さんがいたら凄いよね」
「え!?」
「可能性の話よ。全くない訳じゃ、なさそうじゃない?」
「それは言えてるよね。篠宮さんが社長だったらいいね、響子」
「え!? な、なんで? 加奈子」
「だってさ、響子のいいところを、ちゃんと知ってくれてる人が上司の方が断然いいじゃない」
 それは、加奈子の言う通りだけど、そんなに都合よく行く訳ないじゃない。
 ……まぁ、あたしなんかが採用されることはないもんね。明日は、この前よりも気楽に行こう。
「ま、何はともあれ、明日頑張ってきなよね、響子」
「あたしたちは、信じているから」
「うん、ありがとう。加奈子、里佳」
 そして、ごめんね。励ましてくれているのに、あたしは全然受かる自信がなくて……。
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