Oh, it's youth... -2-

 3人がそれぞれにトレイを持って客席へ行くと、他のメンバーが席を取って待っていた。
「遅ぇぞ、氷室」
「何でそこで出て来る名前が俺なんだよ! 絢子や相模だっているだろうが!」
 非常に不本意な氷室だったが、隣に座った幼なじみに「男がちっちゃい事に、いちいちこだわるなっての」と言われ、憮然と押し黙った。
 このハンバーガー屋は、注文を受けてから作るシステムのため、皆トレイにあるのは飲み物だけだ。
 フロアの角にあるテーブルを5つ占領して、総勢9人が並んで座る。一番奥の端に、紫と金井が向かい合っており、後から来た絢子たちとの間に高城を始め、ガタイのいい連中が埋めていた。背が高ければそれに比例して手足も長い訳で、その一角はとても狭そうに見える。実際窮屈ではあるのだが、あまり席を占領してしまっては他のお客の迷惑にもなろう、と彼らなりに気を遣っているのだ。
 絢子がテーブルについた時、偶然にも奥に座っている紫と目が合った。偶然…というより、紫がじっと絢子を見ていたが故、視線が合ったという感じだ。彼女好みの可愛い顔立ちをした後輩マネージャーは、先輩の不思議そうに見つめる視線にポッと顔を赤らめた。
「?」
 何故にそんな恥ずかしそうにするのか・・・?
 しかし、絢子はあまり気にせず、紫の向かいにいる金井に視線を向けた。
「ねぇ、前から思ってたんだけどさ、紫ちゃんと金井ってお似合いだよね」
「え?」
「は?」
 唐突過ぎる言葉に、当人たちはきょとんとした。
「まぁ言われて見ればそうかもな」
「あぁ、確かにそうだな」
「そうかぁ?」
「まぁ、ある意味似合いかも」
 氷室、高城、原田、松永がそれを受けて口々に言い、絢子は嬉しそうに身を乗り出した。
「でしょ? でしょ?」
「ちょ…何の話ですか?」
 金井が慌てて話に割り込む。
「だから、お前と紺野が二人してそうやって向かい合ってるとさ、恋人同士みたいだっての」
 金井の隣りに座った桂木が、ニヤニヤ笑いながら言う。途端に、金井はユデダコの如く真っ赤になり、紫も恥ずかしそうに俯いた。
 その二人の様子に一番驚いたのは、言い出しっぺの絢子だった。
「え…何? あんたたちホントにそういう関係?」
「違います!」
 金井が口を開くより早く、紫が物凄い勢いで立ち上がった。
「もう、絢子先輩! 変なこと言わないで下さい! あたしと金井君は全然、絶対、未来永劫、そんな関係になんかなりません!」
 一気にまくし立てた紫は、先輩一同が唖然と自分を見ているのに気付いた。ついでに周りの席からも、驚愕と迷惑の視線を浴びている。
 ハッとして右手を口元に当て、彼女はすごすごと席に座って、消え入りそうな声で言った。
「あ、あの…い、今のは、す、すみません。先輩に向かって……」
「こいつらは気にすることないぞ、紺野」
 周りが完全に固まっている中、唯一黙って成り行きを見守っていた相模が、気配り名人の本領を発揮して、言葉を掛ける。寡黙なため、こういう話題には殆ど参加しない彼は、こういう時のいいフォロー役だ。
 身の置き所がなく、肩身の狭い思いをしていた紫は、その一言に救われた。が、次の言葉で今度は大慌てになった。
「それより、金井が燃え尽きてるぞ」
「え? あ! か、金井君、大丈夫? 戻ってきて!」
 呆然と真っ白になっている金井の体を、紫は中腰になって、必死に揺さぶった。
「まぁ、あそこまで言われちゃあ男としては…なぁ」
 漸く立ち直った高城からボソッと言われ、紫は一層泣きそうになった。
「金井君!」
「あ…うん、平気。……あの、先輩たち、俺ら、本当にそういう関係じゃないんで」
 ボーゼンとした表情でポソッと言い、ヘタンと椅子に座る金井。
「やだなぁ、ホントにそんな関係だなんて思ってないってばさ!」
 は!? と金井がおっそろしい顔で絢子を見た。紫などは、半泣き状態だ。
「結城先輩! じゃあ、なんであんなこと言ったんですか!?」
「勝手に恋人って言ったのは桂木でしょ。私が言ったのは、二人が並んでると絵になるってこと。紫ちゃんは見目可愛いし、金井も可愛い系じゃん。ビジュアル的にはバッチリだし、背丈的にもちょうどいいっしょ?」
 絢子が話している間に、桂木は自分の失態に青ざめ、金井は不幸のどん底のような顔をした。
「あぁ、俺もそういうことかと思ってたぞ」
 氷室がそう加えると、高城と松永もうんうんと頷いている。
「相変わらずドジだな。桂木」
 はす向かいにいる原田が、ボソッと呟く。彼自身はさらっと事実を言っただけだが、言われた桂木は揶揄的な意味合いを感じて、しょぼんとした。
「まぁ、お前の滑りのいい口は今に始まったことじゃないだろ。気にするな、桂木」
 それって慰めているんだろうか? …っていうか、更に突き落としてるよな。
 相模の言葉に、更に火の玉を纏わり付かせた桂木を、一同はどこか気の毒そうに見た。
 ちょうどそこへ、店員が彼らのオーダーした商品を持って現れた。一箇所だけ、物凄く雰囲気の暗い集団に恐れをなしたか、へっぴり腰で近付いてくる。それを絢子が目敏く見付け、「後は自分たちで分けるから」とハンバーガーやらポテトなどの乗ったトレイを店員から受け取り、相模がテーブルに乗っていた番号札を店員に渡す。
 特に打ち合わせをしていた訳でもないのに、二人の行動はやたらと息が合っていた。
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