あたしの頬を侑弥の両手が包み込んで、ゆっくりと唇が合わさってく。じっくり、深く口付けを交わして、ちょっと離れてから、またキスされる。それが何度も何度も繰り返されて、あたしは頭も体もとろけきってた。
 いつのまにかあたしの視界には、侑弥の頭越しに部屋の天井が見えて、彼が覆い被さるようにキスをされた。ううん、これはあたしからしてるの? もう何がなんだか、訳が分からなくなってきた。
 分かっているのは、侑弥の部屋でソファに押し倒されて、濃厚なキスを彼と交わしてる、それだけ。もしかして、キスだけじゃなくて、このまま最後までいっちゃうのかな?
 侑弥と密着している体の熱のせいか、ボーっとしていたあたしは、体がふわっと浮くのを感じた。
「侑弥?」
 あたしから見えるのは、侑弥の顎の下と、その頭上に流れていく天井。あ、どこか部屋に入った。それから、ソファとは違うスプリングの効いた柔らかいところに、背中から下ろされた。
 周りを見渡すと、見覚えのある部屋。ここ、侑弥の自室だ。ってことは、ここはベッドの上!?
 ホントに、今日最後までいけちゃうんだ……。
 ギッと音がして、体が少し沈んだ。侑弥が、熱のこもった視線であたしを見下ろしてる。あたしの顔の横に大きな手が置かれて、だんだんと彼の顔が近付いてくる。
「侑弥」
「ハルカ、嫌やったら言うてええよ。俺、もう止められへん」
「あたし、嫌じゃないよ。侑弥」
 あたしは手を伸ばして、指先が侑弥の頬に触れた。途端、彼に強く抱きすくめられて、唇にキスされた。さっきみたいな、ゆったりしたのじゃなくて、もっと激しく深いキス。
 その後はもう、侑弥のなすがまま。彼の体の重みも熱さも何もかも、受け入れるだけで精一杯で。でも、至福ってこういう感じなんだって、そう思えた。

 
 

「まさか今日、最後までいっちゃうなんて……」
「ん? なんか言うたんか?」
 事が終わって、ベッドの中で侑弥と静かに抱き合ってたら、ふと口から漏れちゃってた。
「あ、うん。今日ね、まさかここまでいっちゃうとは、思ってなかったから。侑弥にプレゼント渡しに来たのに、なんかあたしの方がプレゼントもらっちゃった感じ」
 素肌で抱き合うのが、こんなに幸福を感じさせてくれるなんて、初めて知ったし。こんなこと、恥ずかしくて口が裂けても言えないけど。
「ハルカ」
 呼ばれて彼を見上げたら、額に軽くキスが降りてきた。
「侑弥?」
「そんなことあらへんよ。俺の方が、今日はハルカにいっぱい、色んなものもろたよ。おおきに」
 うわっ! そ、そんな幸せいっぱいの笑顔……侑弥のそんな顔、初めて見た!
「そ、そんなこと言ったら、あたし自惚れちゃうよ? 舞い上がっちゃうよ?」
「舞い上がってええよ。俺が引き戻してやるさかい。ハルカは俺のもんや」
 うっ、うっ、嬉しい! あの侑弥から、そんな言葉がもらえるなんて!
「どないしてん?」
「え?」
 侑弥の心配そうな声。そんな声も出せるじゃない。
「ハルカ、泣いとる」
「あはは、違う。嬉しいんだよ、侑弥がそう言ってくれて」
「ほな、これからも付き合うてくれる?」
「そんなの、当たり前じゃん。こんなことまでしておいてさ。……でも、侑弥から『付き合って』って言ってくれたの、初めてだね」
「俺も、不思議に思うてるよ。他人に対して、こんな気持ちになったん、初めてや。俺の恋人が、ハルカでよかった」
 うっ…うわぁ! 下手な口説き文句言われるより、ずっと効くー!!
「あ、あたしも! 初めての相手が、侑弥で良かった」
 侑弥、ニコッと笑ってくれた。こっこっ、こんなカッコイイ男が笑うと、もっとカッコよくなるんだ!
 ……今なら、言っても大丈夫かな?
「ハルカ? 何や?」
「あのさ、侑弥の家族のこと。今度聞いてもいい? さっき、誕生日祝ったことないって言ってたでしょ。すごく気になるの。話すのが嫌だったら、無理になんて言わないから。侑弥が話してもいいって思ったら、聞かせてくれる?」
 言っちゃってから、後悔した。言わなきゃ良かったかもって。侑弥の顔が、前と同じ様になっていっちゃったから。
「ええよ」
「……え!?」
「まだ、ちゃんと言えへんけど。俺も、聞いてもらいたい思うとる。なんでやろ? よう分からへんけど、俺のこと他人に聞いてほしい思うたの、初めてや。せやから、いつになるか分からへんけど、それでもええか?」
 まさか、侑弥がそう言ってくれるなんて、ちょっと信じられなかったけど、嬉しかった。
「うん、いいよ。あたしも、無理に聞こうなんて思ってないから。侑弥が話してもいいって思ったらでいいから」
「おおきに」
 それから、あたしたちは、まるで約束の交わすかのように、キスをした。
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